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| ■2008年6月18日(水) 第141回 『水琴窟』 |
今週は江戸時代初期に考案されたといわれる『水琴窟(すいきんくつ)』を訪ねました。以前、岡山県の小野竹喬美術館で、先日は島根県の絲原記念館で水琴窟の音を聞いたことがあります。が、広島県内ではまだ―。広島県にもありました、出かけました。
福山市神辺町の和雑貨の店【華工房 大阪屋】。水琴窟は着物地で作られた洋服やバッグ、アクセサリーの並ぶ店舗を通り抜けた庭に。カエデ、ツワブキ、トクサ、ミズヒキソウなどの緑と石組みに囲まれた一角に竹筒が立てかけてあります。竹筒は地中に埋めてある水琴窟の音を増幅させて聴くためのもの。竹筒の側に水をチョロチョロ流すと竹筒から「キンキン、キンコロキン」と細いガラス棒を叩き合わすと聞こえてきそうな鋭角的で澄んだ音が―。
水琴窟の構造を簡単に紹介しましょう。底に穴を開けた甕を逆さに地中に埋め、穴から水を流し入れると底に溜まった水に流れ落ちた水滴の音が甕の中で反響する仕組みです。水琴窟は日本庭園技術の一つで茶室入口の“つくばい”や書院縁先の“手水鉢”の地下に造られました。つくばいや手水鉢で使った水が流れ落ち【琴】のような音を響かせたのです。
「こういう工夫を考え出した昔の人は偉いですね」とは大阪屋の今西一成さん(51歳)。水琴窟は庭師の遊び心から生まれた日本独自の風流な仕掛けなのです。大阪屋では一成さんの父 昭さん(81歳)が岡山の豪商の家で聴き「わび・さびの風情のある水琴窟は土蔵のある“和”の商いにふさわしいもの」と15年前に設置しました。一成さんによると 晴れればカラッとした音、湿った日はややぼやけた音と天候によって音は微妙に異なるとのことですが、「余韻がなんとも言えない」と。出かけた日は雨の降った翌日。一成さんに言わせると「今日は条件としてはあまり良くない日」だったようですが、私の聴いたその音がそうだとすれば、条件の良い日はさぞかし。頭の中の雑念がスーッと天に抜けるようでもあり、心の中の曇りが晴れるようでもあり―。滴が続くかと思うと少し間を空けてキーンと響いたり―。
水琴窟は地中に埋められているのが昔からの有り様ですが、最近は地上に見える形のものが造られていると教えてくださり案内してくださったのは《名水フリーライター・水琴窟師》の錦川鯉さん(51歳)。呉市清水町 休山の中腹にある寺 源宗坊寺(げんそうぼうじ)に錦川さんが造った地上型の水琴窟があります。ここでは山水を竹樋で引いていつでも音を楽しめるようにしてあります。こころ洗われる緑に包まれ涼やかで静謐な空気の漂う境内に水琴窟の音と野鳥のさえずりがこだまします。身じろぎせずじっとしていたい気分です。
錦川さんが「水琴窟は癒しの音であると同時に“鎮魂”の音でもある」と連れて行ってくださったのが広島市のにぎやかな街中 大手町。本逕寺(ほんけいじ)の墓地にそれが―。この寺は原爆が投下された爆心地から700メートルのところにあります。住民全滅に近い犠牲者を出しています。4年前に亡くなった前の住職渡辺文人さんは被爆50年の年、墓地に地下埋蔵型の水琴窟を設けました。住職の奥様の言葉が心に残りました―「滴の一つ一つが原爆で亡くなった人の魂。コロコロという音は魂が闇の中に落ちて行く音。住職は鎮魂の思いをもって水琴窟を聴いていました」
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| (2008年6月18日更新) |
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